磁気力顕微鏡
AFMは汎用性の高い測定技術であり、標準的なトポグラフィーマッピングだけでなく、様々な表面特性を知ることができます。測定手法のひとつに磁気力顕微鏡(MFM)があり、さまざまな材料の磁気特性を高分解能にイメージングすることができます。カンチレバーの探針側に磁性膜コーティングを施したプローブを使用することで、AFMシステムは試料表面上の磁場勾配を定性的に測定することができます。
測定はスタティックまたはダイナミックモードで行うことができます。スタティックモードでは、磁気相互作用により生じる、試料表面上にあるカンチレバーのたわみを検出し、ダイナミックモードでは、カンチレバーの振動の振幅または位相を検出します(図1)。通常、ダイナミックモードのMFMの方が高感度です。
MFM測定は、探針の磁気コーティングの複雑な磁化と、探針・試料両方に影響する探針‐試料の相互作用力のために定性的な測定になります。市販されているプローブのほとんどは、磁気分極の向きをできるだけ長く保持するため硬磁性膜コーティングが施されています。しかし、軟磁性試料をイメージングする際の影響を抑えるため軟磁性膜コーティングを施したモデルもいくつかあります。
磁気情報と表面形状情報を分離するために、特殊な2パスイメージングモードが一般的に使用されています(図2)。最初のパスでは、プローブはシングルスキャンラインで形状情報を取得し、その後表面から離れます。2回目のパスでは、プローブはあらかじめユーザーが定義した一定の高さΔZ(通常は数十から数百ナノメートル)で、フィードバックを無効にして表面形状をトレースして、サンプルから一定距離における磁気的相互作用のみを検出します。
MFMの代表的なアプリケーションは、磁気データストレージの磁気ビットや磁性材料上のドメインのイメージングです。図3の画像は、ハードディスクドライブ(HDD)のプラッター表面の測定から得られたものです。最初の画像は、1パス目のスキャンで表面形状を示しています。2つ目の画像は、2パス目のスキャンで磁場の変化を示しています。磁気画像における高い領域と低い領域は、ナイナリー(2進数)の1と0を記録している磁気双極子の向きが異なる領域を示しています。
現在、MFMは50nm以下の分解能を実現しています。以前は、このような分解能はスピン偏極低エネルギー電子顕微鏡(SPLEEM)のような電子顕微鏡技術でしか達成できませんでした。MFMの利点は、試料前処理をほとんど必要とせず、実際の3次元画像を得ることができることです。